こちらは平成4年(1992年)に、すかんち(SCANCH)が発表したメジャー3枚目のアルバム『恋の薔薇薔薇殺人事件』(こいのばらばらさつじんじけん)
先の2作と同じ当時のCBSソニーからのリリース(SRCL-2341)
前年のデビューから2ndまではリリースの間隔も短く、どういうわけか曲もメジャー調の似た感じのものが多かったが、ここにきてマイナーキーの曲調を意識して増やし、少し重圧なバンドサウンドが衝撃的だった当時の記憶。
1曲目の"恋のマジックポーション"は前年シングルでリリースしたものを、アルバムではミックス違いのやや重厚な音像に処理しています。
曲調自体も以前のシングル曲よりも少しハード路線でしたね。
微妙な違いですけど上の動画MVのほうはシングルミックスです。
この曲は某テレビ番組のオープニング曲でしたので、テレビでも露出が多くありました。
毎回元ネタを上手く昇華させた楽曲で楽しませてくれますが、この曲も後年のインタビューで様々な曲から影響されたと語るローリーさん。
「恋のマジックポーション」は、エレクトリック・ライト・オーケストラでジェフ・リンとコンビを組んでいたロイ・ウッド、彼のソロの「Oh What A Shame」という曲と、彼のバンド、ウィザードの「Rock’n Roll Winter」と、ベイ・シティ・ローラーズの「Summer Love Sensation」を合わせて、ソリッドなハードロック風味に仕立てあげて、スイート風のコーラスを付け加えた、というものだったのね。基本的なメロディはロイ・ウッドからインスパイアされていて。
曲名もアーティスト名もしっかり出しちゃっています。
全部聴き比べてみると、ベイ・シティ・ローラーズはかなり近いもの(いい意味でなぞったそっくりさ)を感じます。
"Summer Love Sensation"(邦題は"太陽の中の恋")はこちらの楽曲です。
他にも気になるところでは、個人的にアルバムの中で一番好きな2曲目の、"恋のローラースケート"のイントロは、モトリー・クルーの "Public Enemy #1" (1981年『Too Fast for Love』収録)に、似ているかなと思ったり。
いや、さらに遡っての元ネタがあるのかもしれません。
『恋のローラーなんちゃら』というのは昔よくあったタイトルで、ドリー・ドッツの" 恋のローラースケーティング"、日本でも"恋のローラースケーター“(青木美冴)"恋のローラー・ブーツ"(比企理恵 )など。(ちなみにレッチリのカバーでおなじみなのは "愛のローラーコースター" )
つづいて3曲目"ラヴレターの悲劇“はツェッペリン風のリズムアレンジで、半音ずつ落としていって濁らせるコード使いがカッコイイです。
5曲目 "涙のサイレント・ムービー" はキーボードのドクター田中の楽曲で、このアルバムまで「涙の…」というタイトルで毎回1曲収録されてきましたが、このアルバムではインストの"欧羅巴奇譚I"数曲挟んで"欧羅巴奇譚II"という小曲も担当。
「欧羅巴」はヨーロッパの漢字表記で「奇譚」は不思議な言伝え(物話)
また元ネタあらさがしになってしまいますが、7曲目3拍子のマイナー曲"フローラ"は、トム・ジョーンズの"Delilah"(デライラ)が確実に元ネタだと想像されます。
こちらはセンセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンド(The Sensational Alex Harvey Band)によるカバーヴァージョンのほうが、バンドアレンジ部分も含めさらに近い(同じ)です。
このフローラは歌詞の中で死んでしまいますが、トム・ジョーンズのほうの歌詞は、意中の女デライラ(もしくは相手の男を)を殺しに行くような内容の歌詞みたいですね。
8曲目"栄光のロックンロール☆キング"が、チープ・トリックの"Elo Kiddies"(1977年『Cheap Trick』収録)のリフと、ゲイリー・グリッターの"Rock and Roll"(1972年『Glitter』収録)のリズムやノリを足したようなクセのある楽曲。
いろいろとお騒がせなゲイリー・グリッターの "Rock and Roll Part 2" は掛け声も含めてテンポなども酷似しております。
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/80907www.billboard-japan.com
最近では映画『ジョーカー』での楽曲使用で話題になったよう。
三波春夫のような歌詞が印象的な10曲目の "ハロー・エヴリバディ" は、先のインタビューでも出ていたウィザード(Wizzard)の " I Wish It Could Be Christmas Everyday"(邦題"毎日がクリスマス”)のサビを思わせますが、それだけで終わらずカバーヴァージョンを、"もしも毎日がクリスマスだったら" というタイトルで1995年11月にシングルで発表しています。(翌年のベストアルバム『HISTORIC GRAMMAR』(1996)にも収録)
同じネタを2度擦るところが彼ららしいですね。
引用元となった"毎日がクリスマス”はウィザード(Wizzard)1973年のシングルヒット曲
世界観の共有というか、すかんちがやりたかったのは、こんな雰囲気そのものだったのかなと今になって思います。
収録曲のタイトルをみても "恋のマジックポーション" は、ザ・サーチャーズ の"Love Potion No.9" だったり、"悪夢にWelcome"は、アリス・クーパーの"悪夢へようこそ"を思わせるし、"ボヘミアン・ラプソディII" に関してはそのまま。
洋楽の邦題のイメージをうまくタイトルに持ってくるところもさすがです。
邦題に多かった『恋の…』というタイトルが、シングルだけじゃなくアルバムでも多く使われていて、冒頭の2曲で並んでいるところが何ともいい
※前作『恋のロマンティック大爆撃』(1991年)でも冒頭に3曲
久しぶり聴いてみてもこの『恋の薔薇薔薇殺人事件』は、重たいサウンドの中にもメロディックな感じが残り、狂気と狂喜の共存した傑作アルバムだと思います。
これ以降のアルバムも蜜よりは毒のほうが強くなってくるので、前作の2枚とは違う作品になってると思います。
A Case of Rosy Murder For Miracle Lovers Only